山の世界で見た最も悲しかったこと

先日1ヶ月かけて北アルプスを縦走した。
仕事とはいえそこで見た景色や経験は二度と味わえないもので、来年同じ場所に行っても得られない大切な時間と記憶になり、それは別記事で紹介するとして。
これまでの登山と今回じっくり見た山の世界。

大きく印象に残ったのは、何よりも山小屋の接客対応でした。
こんなに笑顔もなく無愛想で事務的にお金を受け取るだけの関係なのか…と。

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記事内容と写真に因果関係はありません。

山小屋は忙しい

事情が分からないわけではない。
小屋によって朝食や掃除開始時間は異なるが、朝食の仕込みは3時過ぎに始まり10時過ぎには掃除や布団セッティングが終わってる状態。昼過ぎには夕食の仕込みが始まる。登山道整備やヘリの荷揚げ、汚物処理、焼却などやることは盛りだくさん。もちろんチェックインや売店、問合せの電話は朝から途切れることなく続く。
下界と違って限られた水・電気・モノの中で働く。そして客数の変動が目まぐるしい。予約なし到着、宿泊日変更、ドタキャン、未連絡。台風や雨の日には100人以上キャンセルが出たり、基点となる小屋では停滞する人で溢れる。この変動が一番ネックなんだと思う。

といってもそれは外界も怒涛の繁忙期があるわけで。ビーチリゾートもスキー場も忙しさは同じ、むしろ長い。都会や京都の宿なら通年忙しい。外国人観光客も多く、別の問題も抱えている。
場所によって違うが、私が過ごしたエリアは約3ヶ月営業し、ピークは8月前半。あとは9月の連休。プライベートも合わせて7月は3週間北アルプスで過ごしたけど、宿泊客は少なく小屋にも余裕があったと思う。9月も3連休以外は空いてる。少なくとも白馬や槍穂エリアよりは人の少ないエリアで宿規模も小さい。

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窓口に座っているだけで声をかけないと応対しない、聞かれたことしか答えない、笑わない、自ら声もかけない(かけさせない)。

14:00~17:00頃までは小屋全体がスタッフも客もバタバタして騒々しい。チェックインとビールを買いたい登山者が並び、受付以外は夕食準備に追われているため、笑ってお喋りする間もない。お昼前後や夕食後はそれなりにゆったりとした時間も流れる。スタッフ一同ゆっっくり朝食をとる小屋もある。

でも登山客とは必要以上に喋らない。笑わない。

何しに来たの?

多くは山小屋を経験したことがあるから応募したはず。山が好きで、山が好きな人と関わりたいからわざわざ不便なその小屋に来たんじゃないのか?山小屋職が楽とは言わないが、それくらい覚悟して来たんじゃないのか?しかも1~2ヶ月も我慢できず「忙しい」と顔に書いて態度で示す人が下界で何が出来るの??多忙期はほとんど休めず、のんびり登山する時間なんてないのは知ってたでしょ..?
…と余計なお世話だが、私は毎日そんな疑問と違和感をもって無表情のスタッフを眺めていた。

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ずっと記憶に残るもの

登山も旅も、食事や休憩、移動中に知り合った同志と話しが盛り上がる。情報や苦労を共有しワイワイ話すのは醍醐味の1つだ。
それでもね、飲食店や宿のスタッフ、地元の人に話しかけられたらもっと嬉しいんですよ
たくさんの町村を巡る。たくさんの山へ行く。どんな美しい景色や立派な建造物があっても記憶は薄れていくものだ。特に地名は覚えられない。

それを左右するのは人。世界遺産だろうが百名山だろうが印象が薄ければ忘れるし、これと言って特徴のない町でも、雨の日でも、そこの住民やスタッフで忘れられないものとなってその地名は忘れない。そしてあの町は良かった、あの山は良かったという記憶になる。(だから会話の少なかった国の記憶は薄れてます…)
そんな経験をした人たちが働いているのではないのか?ネパール被れのスカした窓口女は、山よりも美しいネパール人の笑顔から何を得たのだろう。

スタッフにとっては飽き飽きする話でも、外のベンチやロビーや談話室で一言話しかけるだけで客の思い出は変わる。
「今日はどちらからですか?」「明日はどちらまで?」「次回はぜひ○月に来るといいですよー」こんなこともニコニコと言う余裕もない職場。
スタッフ同士、知人客とだけニコニコ話して、他人客には目もくれず、彼らは何を得て下山するのだろう。
*わかりますよ、わがまま客も多いし、話しかけると調子に乗ってブワーっと話し始めちゃう人とか、デリカシーない人とかねいますけどね。

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この一ヶ月間、私は登山客ではなかった。いろいろ質問もされるしお互いの話もできたが、一般登山者だったら会話は一切なかったと思う。確かにプライベートで利用している時も会話は少ない。

オーナーご主人がそういう指示を出してるとはとても思えなかった。共通して若い子(20歳前後)の表情は硬くて怖かったが… 小屋番やアルバイトの器の問題だと思う。先輩がそうしてるなら新人も真似する。同じ規模・スタッフ数でもまったく違う空気をもち、残念な小屋ほど文句も多い。廃れゆく観光地や潰れる会社の縮図を見ているようだった。
逆に大天井、水晶小屋、三俣、雲ノ平山荘では客・スタッフともに多くても優しい空気が流れていたと思う。もちろん他にもアットホームで良い小屋はたくさんある。

1番笑顔のない小屋らしいご意見もいただいた(陰口だけどね)。スタッフとコミュニケーション取らないとか、郷に入れば郷に従えなど。どの口が……!
山という世界に行ってまで、ド田舎のご都合主義と馴れ合いの村社会文化を見せつけられたような気がした。
そして電波もないのに噂がすぐ広まる‼怖っ(⦿_⦿)

山小屋とは

登山行程中に宿泊や食事の便宜を図る施設であり、旅館ではない(wikipedia)

じゃあ外界の宿や接客業すべては「満面の笑みでお客様をお迎えし、万全のサービスで奉仕しろ」なんてルールでもあると思ってるのかバカ野郎。

また来たいと思わせる仕事はしないの?

客側が勝手に来ただけ、とでも思っているのだろうか。
「また来てね」「ここって最高でしょう?」の気持ちがないなら迎えるな。話す時間が無くとも、迎える気があるならあそこまで 不細工 無愛想にならないだろう。
また見たい景色はたくさん出来たけど、一般登山客として訪ねるには迷う小屋が多いことが本当に残念だ。

山旅の中で見た山小屋の空気感は、私の中でベトナムと情景と重なることが多かった。あんなに有名であるにも関わらず閉鎖的・排他的な国は類を見ない。あの笑顔も挨拶もない国から「安い」を除いたら世界中の誰が好んで行くだろうか。

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車で来たわけじゃない。旅行するのと変わらない(むしろ高い)出費も惜しまず計画して、滝汗流して歩いて来た人への対応が申し訳なくて、出来るだけ私は登山客に話しかけて他愛もない話をしていた。貧しい小屋にはサボってるように見えたようだが(動いている人だけが仕事していると見る職場あるよね)、私にとってはサボってる人の代わりに話してただけだ。
小屋が自己満を通すなら私も同じだ。
みんな嬉しそうに語りだし、たくさんの山ストーリーや情報を得た。翌朝大声で「気をつけて~!」と叫ぶ。「ありがとーお姉ちゃんも気ぃつけてなー!」と返してくれる。1ヶ月も山を転々として、スタッフによるそんなシーンを見なかった。

あの環境の中で豊かな経験を得る場所と思っていたら、むしろ寂しい世界を見た。そんな中で布団がー、部屋がー、乾燥室がーと、つまらない文句をつける客がいるのも確かだ。

それでも私は事務的に対応し金だけいただく事は選択せず、そのバイトをクビにする。
自分のキャパを超える忙しさなら手間かけすぎの献立を1から見直し、布団や消耗品の有無も考え直す。それが仕事だ。

※ちなみに私は宿のオーナーですm(_ _)m

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